過敏性腸症候群とは
俗にいう「もともと、おなかが弱い人」のほとんどはこの疾患です。内視鏡検査では病変や炎症などの器質的な異常はありませんが、腸の機能に問題があって腹部に不快な症状を起こす疾患です。発症にはストレス、食生活、生活習慣などの影響が指摘されていますが、はっきりとした原因はわかっていません。消化管の機能は自律神経によりコントロールされていて、腸は第二の脳と呼ばれています。こうしたことから腸の蠕動運動などの機能はストレスの影響を受けやすいとされています。過敏性腸症候群でも、緊張や不安などのストレスをきっかけに発症・悪化することがよくあります。最近は、ストレスの大きい働き盛りの中高年だけでなく、思春期の中高生や、まれに小学生などでも多くみられます(お受験・学校生活・家庭環境・・・などのストレスに敏感な子供さん)。
過敏性腸症候群の症状
腹痛、下痢、便秘、膨満感などを起こします。症状を起こすきっかけに、不安や緊張といったストレス、食事内容などが関わっていることが多くなっています。普通の方でも、基本的に、腸が動き過ぎると下痢になりやすく、動かな過ぎると便秘になりやすいのですが、IBSの方では、そのふり幅が大きく、長いのが特徴です。なお、睡眠中に症状を起こすことはありません。症状の内容によって、下記の4タイプに分けられます。
下痢型
主に男性に多く、急にお腹がグルグルと鳴って、激しい腹痛が起きてトイレに駆け込むと、水のような下痢になるタイプです。排便後は症状が一時的に治まりますが、1日に複数回こうした症状を起こすこともあります。トイレに間に合わないのではと外出が不安になって、そのストレスから症状を起こすこともあります。ライフスタイルや仕事に悪影響を与えやすいため、早めにご相談ください。
便秘型
主に女性に多く、腸が痙攣を起こして便が停滞し、腹痛を起こします。ガス(おなら)が多いけど、なかなかスッキリ出ず、ずっとお腹が張ったような症状が出ることもあります。強くいきまないと排便できませんが、ウサギの糞のように小さくて硬いコロコロした便が出て残便感が残ります。排便時にいきむ癖がついてしまうと、いぼ痔や切れ痔の発症リスクも上昇します。
交代型
典型例では激しい腹痛をともなって、便秘と下痢を繰り返しますが、下痢:便秘=1:1であることは少なく、下痢か便秘のどちらかに偏っているけど、どちらも起きるようなタイプが多いです(例えば、2週間くらい下痢して、3日間は便秘になり、そのあとまた2週間くらい下痢する・・・というようなサイクル)。
分類不能型
膨満感や腹鳴、不意に漏れてしまうおならなど、下痢型・便秘型・交代型とは異なる症状が主に現れます。
日常生活に支障が出ることも
過敏性腸症候群では、炎症などの病変こそありませんが、腹痛や下痢、便秘を繰り返します。通勤や通学の電車内、テスト・会議・面接など、自由にトイレへ行きにくい場面で不安や緊張などをきっかけに突然強い腹痛が起こり、トイレに駆け込むといったことを繰り返します。こうしたことから、学業やお仕事に支障を及ぼす可能性があり、旅行やレジャーも十分に楽しめなくなるなどQOL(クオリティ・オブ・ライフ)が低下します。試験が近づくにつれて、症状が悪化し、実際にセンター試験を別室受験しないといけなくなった例なども、数例ありました(専門医で書類を書いて提出すれば、別室受験は可能です)。
なお、腸の機能がストレスの刺激で過敏に反応してしまう場合には、情報を伝達しているセロトニンをコントロールすることで症状の抑制効果が期待できるなど、有効な治療法が登場しています。
過敏性腸症候群の原因
過敏性腸症候群はまだはっきりと発症の原因はわかっていませんが、腸の機能障害によって起こっていると考えられています。発症には、ストレスや腸内細菌、食物、粘膜の炎症、遺伝など、様々な関与も指摘されています。症状として現れる便秘や下痢に関しては、腸の蠕動運動の機能が過剰、あるいは不足して起こっていることがわかっています。蠕動運動など消化管の機能は自律神経がコントロールしているため、ストレスによる悪影響が出やすく、便秘や下痢を起こしやすいのです。緊張や不安の他、過労や睡眠不足も大きなストレスです。一番の治療は、その原因となっているストレスを除去することですが、受験などの場合は難しいため、薬物治療でなんとか受験を乗り切れるように症状をコントロールしていきます(受験が原因の場合、合格すれば、ウソのように症状は消失します・・・が、社会人になって新たなストレスが出てくると、また症状が再発する方が多いです)。
過敏性腸症候群の診断
ます、問診で症状が起こり始めた時期、頻度、便の状態、排便回数、症状が起こるきっかけ、生活習慣、食事、ライフスタイルやその変化、病歴や服用されているお薬などについて伺います。
過敏性腸症候群の症状は他の腸の疾患とも共通していますので、基本的には大腸カメラで他の疾患がないことを確認後の除外診断となります。早急に適切な対応が必要な病気ではないかを検査で確認します。特に、炎症性の消化器疾患、大腸ガンなどではないかを確認することは重要です。そのため、血液検査、大腸カメラなどを行います。
それらの検査で他の疾患がないことが確認されたら、問診の内容などによって診断します。当院では、世界的な診断基準であるRomeIII基準を参考に診断を行っています。
RomeIII基準
過去3ヶ月間の症状を確認します。
腹痛や腹部の不快感が、月に3日以上に繰り返し起こっていて、下記の条件の2つ以上が当てはまると医師が認めた場合、過敏性腸症候群と診断されます。
- 排便によって症状が緩和する
- 症状と共に排便の回数が増減する
- 症状と共に便の形状が変化する
※便の形状変化には「水状」「ウサギの糞のようにコロコロとしていて小さく硬い」などがあります。
過敏性腸症候群の治療
薬物療法でつらい症状を緩和させながら、生活習慣の改善やストレスの上手な解消で症状の解消と再発防止を図ります。
生活習慣の改善
- 3食を毎日、同じ時間帯にとる
- 暴飲暴食を避ける
- 食事の栄養バランスに気を付ける
- 食物繊維と水分を十分にとる
- 刺激の強い香辛料やカフェイン、アルコールを控える
- 軽い運動を習慣化する
- 毎日、バスタブに浸かって芯まで温まる
- 十分な休息と睡眠をとる
- 趣味などの時間を作ってストレスを解消する
薬物療法
症状やお悩みに合わせた処方を行います。主に、消化管の機能を改善する薬剤を用い、便の水分バランスを整える薬剤、下痢や便秘などの症状を緩和させる薬剤などを処方します。たとえば、便の水分バランスを調整する高分子重合体、セロトニン3受容体拮抗薬(5-HT3拮抗薬)、止痢薬、粘膜上皮機能変容薬、下剤、腹痛を緩和させる抗コリン薬、乳酸菌などのプロバイオティクスなどがあります。 下痢型の場合には、予兆を感じた時点で服用することで、その後の症状を軽くする薬剤が有効なケースもあります。効果の出方には個人差がありますので、再診時にお話を伺って処方を微調整しています。なお、IBSは慢性疾患であり、短期間でスパッと感知するような疾患ではありません。数ヶ月~半年、年単位でじっくりと向き合っていく必要があります。また、一旦症状が軽快しても、その後、何かきっかけがあるとすぐに再発してしまうもの特徴の1つです。